インドネシアの学生の間で流行る降霊術
インドネシアの学校や学生寮では、夜な夜なある禁忌の遊びが囁かれています。それは日本の「こっくりさん」にも似た降霊術ですが、その危険性と恐怖は比較になりません。現地では「ジェランクン(Jelangkung)」という名で広く知られる降霊術がありますが、その中でも特に恐れられているのが、女性の霊を呼び出すとされる儀式です。
観光ガイドには絶対に載らない、住人だけが知るこの儀式は、面白半分で手を出した若者たちに深いトラウマを植え付けてきました。インドネシア語のフォーラムを読み解くと、この降霊術による集団パニックや原因不明の体調不良の報告が後を絶ちません。
ニニ・アントンとは
この恐るべき降霊術の中心にいるのが、ニニ・アントン(またはニニ・トウォン、ニニ・トウォクとも呼ばれます)という存在です。彼女は元々、雨乞いや病気平癒、失せ物探しなどのために行われていた伝統的な儀式に由来します。しかし、現代の若者たちの間では、単なるオカルト遊びとして消費され、その本来の神聖な意味合いは失われてしまいました。
ニニ・アントンは、ココナッツの殻(シウル)を頭部に見立て、竹や魚捕り用の籠(イチル)で胴体を作った人形を指します。この人形に女性の衣服を着せ、化粧を施すことで、霊の依り代とするのです。かつては村の長老や霊媒師が厳重な管理の下で行っていた儀式が、今では学生たちの間で密かに行われる危険な遊びへと変貌を遂げました。
人形を使った降霊の手順
ニニ・アントンを呼び出す手順は、非常に不気味で具体的なものです。まず、前述の通りココナッツの殻と籠で人形を作成し、女性の服を着せます。そして、深夜に墓地や廃墟など、霊が集まりやすいとされる場所に人形を安置します。
参加者たちは人形を囲み、特定の呪文や歌を繰り返し唱えます。この歌は、ニニ・アントンの霊を人形に招き入れるためのものです。歌が最高潮に達すると、人形はまるで自らの意志を持ったかのように動き出し、参加者の質問に答えたり、奇妙な動きを見せたりすると言われています。この時、人形の動きを制御できなくなることが、最大の恐怖の始まりです。
失敗した時の憑依
降霊術が成功し、人形が動き出したとしても、決して安心はできません。もし参加者が人形に対して無礼な態度をとったり、儀式を途中で放棄したりすると、ニニ・アントンの怒りを買うことになります。最悪の場合、呼び出された霊は人形から離れ、参加者の誰かに憑依してしまうのです。
憑依された者は、突然女性のような声で泣き叫んだり、異常な力で暴れ回ったりします。現地の伝承によれば、この状態から抜け出すためには、熟練した霊媒師(ドゥクン)による強力なお祓いが必要不可欠であり、素人の手には負えません。
学校での集団パニック事例
日本語の情報はほぼ皆無ですが、現地では学校や寮での集団パニック事件が度々報じられています。ある地方の高校では、数人の女子生徒が深夜の寮でニニ・アントンの儀式を行った結果、次々と意識を失い、奇声を上げるという事件が発生しました。
このパニックは瞬く間に他の生徒にも伝染し、最終的には数十人が病院に搬送される事態となりました。学校側は「集団ヒステリー」として処理しましたが、生徒たちの間では「ニニ・アントンの呪い」として今も語り継がれています。このような事件は決して珍しくなく、インドネシアの教育現場において深刻な問題となっています。
筆者考察
海外の文献や現地のフォーラムを突き合わせると、不気味な共通点が浮かび上がります。それは、ニニ・アントンが単なる都市伝説ではなく、インドネシアの深いアニミズム信仰と現代の若者文化が融合した、非常にリアルな恐怖の対象であるということです。
この伝承を調べていく中で、筆者が特にゾッとしたのは、人形という「器」を用意することで、霊の存在を視覚的かつ物理的に感じてしまう点です。人間の形をしたものに霊が宿るという恐怖は万国共通ですが、ニニ・アントンの場合、その人形を自らの手で作り上げるという行為が、より一層の没入感と恐怖を生み出しているのではないでしょうか。