エチオピアの城壁都市ハラールに潜む闇
アフリカ大陸の東部、エチオピアに位置するハラールは、古い城壁に囲まれた歴史あるイスラム都市です。迷路のように入り組んだ路地や色鮮やかな建物が並び、世界遺産にも登録されている美しい街並みが広がっています。しかし、日が沈み、暗闇が街を包み込むと、この都市は全く別の顔を見せ始めます。
観光ガイドには絶対に載らない、住人だけが知る不気味な光景が、毎夜のように繰り広げられているのです。それは、城壁の外から忍び寄る無数の影と、彼らを迎え入れる特定の人間たちの姿です。日本語の情報はほぼ皆無ですが、現地の口伝や古い記録を紐解くと、この街が抱える深い闇と、ある恐ろしい風習の存在が浮かび上がってきます。
闇夜に現れるハイエナマンの伝統
ハラールの夜を支配するのは、野生のハイエナたちです。そして、彼らと対峙するのが「ハイエナマン」と呼ばれる特定の家系に属する男たちです。彼らは毎晩、決まった時間に城壁の外れに赴き、暗闇から現れる凶暴な肉食獣たちに素手や口移しで生肉を与えます。
一見すると、野生動物との心温まる交流や、観光客向けのショーのように思えるかもしれません。しかし、アムハラ語やオロモ語の現地のフォーラムを読み解くと、この行為が単なる餌付けなどではなく、もっと深刻で逃れられない呪縛のようなものであることが分かります。彼らは自らの意志で餌を与えているというより、そう「させられている」のです。
500年続く血塗られた「契約」
この異様な風習の起源は、約500年前の飢饉の時代にまで遡ると言われています。当時、飢えに苦しむハイエナの群れが街を襲い、家畜だけでなく人間、特に子供たちを次々と食い殺すという凄惨な事件が多発しました。絶望の淵に立たされたハラールの住民たちは、ある恐ろしい決断を下します。
それは、ハイエナの群れのリーダーと霊的な契約を結ぶことでした。毎夜、人間の手で十分な供物を捧げる代わりに、街の内部には侵入しないという血の盟約です。この契約は代々特定の家系に引き継がれ、彼らは自らの命の危険と引き換えに、街の安全を守る生贄のような役割を担い続けているのです。
餌を与えないと街を襲うという恐怖
もし、ハイエナマンが餌を与えるのを一日でも怠ったらどうなるのでしょうか。現地の古老たちが声を潜めて語る伝承によれば、契約が破られたその夜、ハイエナたちは狂乱状態となり、城壁を越えて街になだれ込んでくるとされています。
過去に一度だけ、疫病でハイエナマンが倒れ、供物が途絶えた夜があったと語り継がれています。その翌朝、街の広場には無残に引き裂かれた家畜と、行方不明になった数人の村人の血痕だけが残されていたそうです。この恐怖の記憶が、500年経った今でも住民たちの心に深く刻み込まれており、ハイエナマンの存在を絶対的なものにしています。
ハイエナと邪視「ブダ」の不気味な関係
さらにエチオピアの伝承を深く掘り下げると、ハイエナが単なる野獣ではないことが分かります。この地域には「ブダ」と呼ばれる邪視や悪霊の信仰が根強く残っています。ブダに取り憑かれた人間は、夜になるとハイエナに変身し、人肉を求めて徘徊すると信じられているのです。
つまり、ハイエナマンが毎夜餌を与えている相手の中には、ただの獣だけでなく、呪われた人間の成れの果てが混ざっている可能性があるということです。暗闇の中で光る無数の眼球の中に、かつての隣人や知人の目が紛れているかもしれないという想像を絶する恐怖が、この儀式の背後には隠されています。
筆者の考察:共存という名の支配
海外の文献や現地のオカルトフォーラムを突き合わせると、不気味な共通点が浮かび上がります。それは、人間がハイエナをコントロールしているのではなく、実はハイエナ(あるいはその後ろに潜む超常的な存在)が、恐怖によって人間を支配しているのではないかという疑念です。
この伝承を調べていく中で、筆者が特にゾッとしたのは、ハイエナマンが代々世襲制であるという点です。彼らは生まれた時から、毎夜暗闇で猛獣と対峙し、生肉を捧げ続けるという逃れられない運命を背負わされています。500年もの間、恐怖を担保にした歪んだ共存関係を強いられているハラールの街。その城壁は、外の脅威から住民を守るためのものなのか、それとも、見えない恐怖の檻の中に彼らを閉じ込めておくためのものなのか。真実は、毎夜響き渡るハイエナの不気味な笑い声の中に隠されています。