まちづくり第二章

八千穂駅から黒澤酒造までの数百メートルには、古くは明治初期から続く貴重な蔵の街並みが残っています。 これらは、幕末から明治にかけて繭の仲買いや生糸の貿易で成功を収めた黒澤利左衛門氏と、その五人の息子達が形成した一大企業集団がこの地にもたらした繁栄を今に伝える建物群なのです。 駅に最も近い「奥村土牛記念美術館」は、昭和六十年に旧八千穂村に寄贈され、平成二年から美術館として生まれ変わりました。 少し下って、旧呉服・太物商の建物のひとつが修理され、数年前から手作り雑貨の店「喜劇駅前食堂」として営業しています。昔ながらの用水が姿を現す所には、今年九月に民芸品店「創」が開店しました(どちらのお店も冬期休業)。そして、黒澤酒造前の坂の途中には、土蔵を改装した展示スペースとカフェを併設した「ギャラリーくろさわ」があります。

 こうして一部は整えられ活用されていますが、多くの人には知られておらず、人通りは少ないままです。そして、未だ埋もれたままの建造物もあります。「創」の奥には、かつて味噌や醤油を醸造していた旧黒澤食品工業の工場跡があります。煤に覆われた梁で組まれた味噌蔵には大正の年号が刻まれた巨大な樽が並び、隣の建物には赤い煉瓦造りの麹室が残っています。煉瓦には「覆輪目地」という希少な施工が残っており、貴重な建築遺産といえます。庭には石積みの池があり、道に面したかつての店舗の中には、広い土間と帳場、座敷、階段箪笥などが当時のまま佇んでいます。しかし、使われなくなって久しいだけに、工場部分の屋根や壁の傷みが激しく、このまま手を入れなければやがては朽ちてしまうでしょう。

 長野県建築士会佐久支部では、信州大学などと連携し、地元の歴史や文化を今に伝える建物を残し、地域活性化に役立てようと活動しています。身近にありながら、その歴史や価値を知られることなく放置され失われていく地域財産に光を当てて、町の歴史を見直しこれからを考える事を目的としています。先日は、学生やボランティアの方々と旧黒澤食品工業の建物を調査させていただき、池の清掃なども行いました。今後も所有者の方と話し合いながら、この歴史ある建物の価値をどう活かせるか探ります。


建物オーナーのご家族(前列左から4人まで)と
建物修復ボランティアのメンバー

地域のみなさんにも関心を持っていただき、手を貸していただければ幸いです。 素晴らしい「未来」があると信じて「過去」を見捨ててきた大量消費や高度成長は、地域の個性を奪い、凡庸にしてしまいました。失ったものは戻りませんが、わずかに残る「過去」からこの地に流れていた時間をていねいに紡ぎ直すこと、それが再び地域を豊かにし、わたしたちに確かな「今」を与えてくれるに違いないと思うのです。

※個人のお家ですので、本活動はオーナーの御了解、御協力のもと行っています。

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